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アルファロメオの登場する短編 Season9-3

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もうなんだか自分のことだか小説の世界かわからなくなってきちゃいました。
(あ、こんな出会いはありませんでしたよ。疑い深い諸兄に、一応念を押しておきましょう)

林田と紗季子は互いの距離をどのように作っていくのか。
さて怒涛の第3話です。

題:白い花
第3話/互いの距離

美術館に紗季子と出掛けてから三ヶ月が経つ。
林田は4日に一度くらいのペースで自身のホームページに記事をアップしていたが、紗季子は必ずコメントを入れてくれるようになっていた。
相変わらず彼には難解な表現で、もしかしたら彼女のほうが自分よりも絵画に対する観察力と審美眼は上なのではないかと感じ入るコメントも少なくなかった。
そんな林田は自分の方から紗季子ともう一度会いたいと強烈に感じ始め、思い切って矢川の診察室へ向かった。

「お前も大概にしておけよ。竹内さんは診察で2週間に一度、火曜日の午前中に来るけどね。この頃彼女変わったぜ。お前まさかこの前俺が言った改善方法を実践しようとしているんじゃないだろうな」

矢川は半ば呆れ顔にそう言った。

「恥ずかしい話だが、もしかしたらそうかもしれない。聞けば彼女はそこそこ有名な出版社のwebデザイナーだって言うじゃないか。今事務局ではホームページとパンフレット等の作り変えを企画してる。法人内にwebデザイナーなど居ないし、今まで付き合いのあるデザイン会社も悪くはないが、俺は今回彼女をうちの部署に来ないかって誘ってみようと思ってるんだ」

林田の務める医療法人は半年前に経営不振に陥った医療機関を吸収し、それまで不得手だった血液腫瘍科を充実させることができたのだった。
それを契機に病院内の組織体制の見直しを図ることになり、先ず手始めに今期は旧態然としたホームページ等を刷新するべく林田は取り組んでいる最中だった。
とは言え事務局は慢性的に人材が不足しており、この作業は遅々として進んでおらず、また外部のデザイナーとの遣り取りは隔靴掻痒のジレンマを感じているところでもあった。

「メインバンクの部長からは、巨額な資金を投じたM&Aだからこの血液腫瘍科の充実をもっと喧伝して、少なくとも5年後には投入資金を回収してくれと俺は釘を刺されてる。だからまずこのホームページの変更をその足がかりにしたい。それには誰もが気を惹くビジュアルにしたいんだ。だから彼女の力を借りて・・・」

「ま、分かったよ。それはお前の仕事だからな。俺には振ってくるなよ。明日彼女が来たら事務局へ行ってくれって頼んでみるよ」



*******2ヶ月後*********

「どうですか、竹内くん。あなたが満足できる仕上がりになってきたかな」

林田は理事会でメインバンクからの要求、今後10年間の予想される法人全体の損益計算書、血液腫瘍科の持つ将来性などを訴え、半ば強引に竹内紗季子を社内に引っ張り込むことに成功した。

「非常勤という身分ですまないな。でも今期これで評価を得られれば竹内くんは常勤職員への道が開ける。それに俺だって銀行に首根っこを押さえつけられているんだから、竹内くんと運命をともにする覚悟をしなきゃいけないと腹をくくってるけどな」

「・・・・事務長さんって大変だね。わたしは幸せだよ」
「・・・・こんなに凄いこと、わたしがやってもいいのか、って思う」
「・・・・毎晩寝るときには明日もこのままの続きでありますように、って祈ってから寝てる」

「そうだ、その通りだ。今日は明日へ続くんだ。だから今日ほんの少しだけ変わればいい。そうすれば明日はそのほんの少し変わった所からのスタートになる。そうやって毎日少しづつでもいから着実に高みへと登っていけばいい。いつか雲の上に出ることが出来るさ。そこは晴れ渡った青空が広がっているに違いない。竹内くんが思う、感じるそのままの、この病院の素晴らしさを表現して欲しい。頼むぞ」

林田は仕事を通じて紗季子に自信を持たせ、閉じた心を解きほぐすことが出来るのではないかと、矢川から聞いた方法を実践していた。しかし問題は「彼」にならなきゃいけないってことだったが、上司と置き換えればそれも可能ではないかと決めていた。

「・・・ケツはいつ? クリスマスに間に合えば平気?」

「ケツってなんだ?あぁ締め日のことか。そんな言い方、若い女性がするもんじゃない。ま、年明けには新年の手土産代わりに銀行にプレビューを見せたいな。もしクリスマスまでに間に合えば有り難い」

紗季子は独身だと聞いていた林田は、毎週金曜日の夜だけは紗季子を食事に連れて行った。

「さてもう7時過ぎだ。そろそろ今週は終わりにしよう。飯を食いに行くぞ。準備してくれ」

「・・・・事務長さん。・・・・今夜はうちでご飯食べようよ。・・・・私作るから」

紗季子は俯向いて小さな声で、そしていつものようにブツ切りの喋り方でこう言った。
林田はといえば、思いもしない提案をされ、速くなる自分の鼓動を感じ、うろたえた。

「そ、それは光栄だ。竹内さんの手作りってことか。それじゃぁ途中で買い物していこう」

林田は変な緊張と興奮のためか、少々上擦った声でそう答えた。
当初から決めていたように彼女とは男女の関係など全く考えの及ばないところにあるし、それは今でも変わらない。
採用してみて改めて矢川の診察の的確さを感じるほど、彼女とコミュニケーションを取る難しさも分かった。
パーキングスペースから156を出す時には、慣れ親しんだはずのクラッチを唐突に繋げてしまい、紗季子の躰を不用意に動かした。
『何だこれ!俺はもしかしてあらぬことを期待してるのか。馬鹿なことを期待するもんじゃない。彼女は同僚で部下だ。それくらいの分別はお前にもあるだろう』
さすがにクラッチミートをギクシャクさせた自分に腹が立ち、林田は無礼を紗季子に小声で詫た。

恵比寿にある紀ノ国屋、エントレで買い物したいと紗絵子から言われ二人は車を降りた。
紗季子は何を作るつもりなのか全く教えてくれないまま無言でカートを押し、買い物は終わった。
チーズとワインとその他数点だけの買い物だったので、きっと彼女は冷蔵庫にストックしてあるもので料理をしてくれるのであろうと林田は理解した。
しかし今夜のこの出来事は完全に整理できないまま、彼は彼女に道案内をしてもらいながら紗絵子の住むマンションへとアルファロメオを走らせた。

地下の駐車場に車を滑りこませ、紗季子の指定する駐車スペースに156を停めた。買い物袋を林田が抱え、紗季子はセキュリティカードを使って鉄扉を開け内階段を上がり、二人で並んでエントランスへと歩いていった。
さすがに名のある出版社に勤めていただけあって、紗季子のマンションは一人で女性が暮らすには快適な住まいだった。
こんな状況は妻と別れてから初めてだった。何故かすっかり彼女のペースに巻き込まれていく自分を、どこか第三者的に見ているような現実離れした感じだった。

「車、勝手に停めて大丈夫か?」

「・・・来客用スペースだよ」

相変わらず無愛想な娘だ。林田は苦笑いしたことを気づかれないように、抱きかかえた買い物袋を覗きこむように下を向き、加速していくエレベーターの速さを感じていた。
部屋のドアを開けると彼女のコロンの香りがした。



「・・・・買い物のお金ありがとう」
「・・・・ここに座っていて。一時間もいらないけど、出来上がるまでここで待ってて」

「え、いやご馳走になるんだから支払うのは当たり前だ。それに料理、俺も手伝うよ。俺だって独り身だ。料理には多少自信がある」

「・・・・分かった。でもワイシャツとネクタイじゃ無理。着替え持ってくる」

あぁ、そういうことか。俺が着ることが出来る服が有るってことだよな。紗季子さんだって男友達はいるだろう、林田はそう思って自分を諌めた。

「・・・・これ、親父の。時々偵察に来るから置いてある。これに着替えて」

「あ、そうか。お父さんのか。ありがとう。じゃ、ここ閉めて着替えるよ」

林田にとって予想もしない展開が平凡な日常を彩ってくれた夜だった。
冷え込んできたこの季節に合わせたのか、紗季子が作ってくれたのはポトフとピラフ、そしてサラダとデザート。デザートは林田が決めてそっと買い物カゴへと忍ばせたものだった。
料理は手慣れた様子で、チラッと覗いた冷蔵庫も整理整頓されていた。
ポトフは十分に躰を温めてくれてピラフはどちらかと言うと添え物程度の量目だった。
二人で囲む食事はそれ以上に暖かかった。林田は久しくこういう感覚から遠ざかっていたため、妙に饒舌になっていた。



「・・・・事務長さんは650kcalくらいにしておきなさいね」

上目遣いで突然言われた時にはびっくりした。この子は冷静だ。
自分の感情に振り回されているのは俺の方だった。彼女は俺に出会ってからもきっと冷静なままだったに違いない。けれど俺はどうだ。彼女の父親のために用意された部屋着を着て飯を食い、不思議な少女に惹かれ始めてる。

今取り上げるべき問題は彼女の言ったカロリーではなくワインを飲んでしまったことだった。このままでは運転して帰れない。
すると紗季子は全く意に介せず泊まっていけという。来客スペースはいつも開いているから車の心配は不要だと。
いや、それも違う。そんなことを心配しているんじゃない。心配なのはオレの自制心だ。

食後の片付けも二人で行い、紗季子はデザートのためのコーヒーを淹れた。

「・・・・明日は休みでしょ、事務長さん。・・・ゆっくりしていっていいよ」

父親が偵察に来た時の為にソファーは簡単なベッドになるようだった。リビングにあるそれをベッドへと組み直しながらも紗季子は無表情だった。
ほろ酔いの林田は一人暮らしの女性宅から出るときのタイミングって難しいだろうなぁ、などとぼんやりと考えていた。

「あぁ、ありがとう。そうだ、その事務長さんっていうのはやめようよ。私の名前は林田亨。好きに呼んでくれて構わない。ともかく事務長さんっていうのは職場みたいで嫌だ」

「・・・・亨さんって呼ぶ」

あぁ、いつもこの娘にはこうやって驚かされる。亨さんなんて呼ばれるのは妻と別れてから何年ぶりのことだろう。
ベッドメイクを終わらせた紗季子は再び林田の前に座り、こう切り出した。

「・・・・ちょっとお話がある。少し長くなる・・・私の事」
「・・・・私幸せです・・・亨さんにうちの病院で働かないかって言われたこと」
「・・・・自分のこと自分で好きになれないのに、亨さんは私を必要としてくれた」
「・・・・病院には綺麗で優秀な人が沢山いるのに。亨さんなら選び放題なのに・・なぜ私のこと」

「・・・それに美術館に連れて行ってくれたし。アルファロメオにもいつも乗せてくれる」
「・・・優しいし、仕事のことと私の病気のこと、すごく理解してくれてるし」
「・・・矢川先生が言ってた。林田事務長は紗季子の味方だって」
「・・・でもわからない。どうして亨さんはそんなに私の事、気にしてくれるの・・優しいの」
「・・・いつも金曜日ご馳走してくれる。私、男の人とご飯なんて絶対駄目なのに・・亨さんなら大丈夫なの」

「・・今日は私がご馳走したかった。今までの感謝の気持ち。でもこんなので精一杯。本当の感謝の気持ちは約束通りクリスマスまでに仕事を終わらせることで示します」

「・お店でご飯じゃ、嫌だった。うちでご飯、一緒に食べて欲しくて、心臓が爆発しそうだったけど、思い切ってお願いした。私この頃少しだけ、自信が持てるようになってきた。だから試してみたかった。断られたらどうしようって心配だったけど、今日少し変わればいいんだって、亨さんから言われて決心できた」

「今夜の事考えると、昨日の夜は眠れなかった。でもね、そんな時、亨さんの運転するアルファロメオの音と振動と独特な香りと、そして流れる景色を思い出したら、こころが穏やかになってきていつの間にか眠れたの。だってほら,亨さんにならこうやってこんなにたくさん喋れる。今までこんなに頭に浮かんだことを次から次へと口に出せたことなんて無かったのに、亨さんの前なら出来る。こんな自分が嬉しくて。それに働かせてもらえること以上に、事務局のドアを開けて亨さんがいるのを見るのが毎朝嬉しくて。朝が来たらまた会える、朝が来るのが待ち遠しいなんて生まれて初めてだった」

林田の目をしっかりと見つめながら一気に話し終えた紗季子は俯き、ハンカチで涙を拭い始めた。
林田はすっかり酔いが醒め、マンションに入った時の早鐘のような鼓動もおさまっていた。
彼は椅子から静かに立ち上がり、あの魅力的な目にハンカチを当ててしゃくりあげている紗季子の背後から、そっと両腕を回し抱きしめた。

『俺は知っている。あなたが屏風絵のことを話した時のこと。あの時はきちんと長い文章で話していた。だからあなたは大丈夫だ。自分で自分のことを受け入れられていないだけなんだ。紗季子さん、貴女はもっと自由になれる。天上へと進んでいけるよ。勝鬨橋が気に入っているんだろう?あの大きな空へ、トンビのように自由に羽ばたけるさ、自分の翼でね。そしていつか天の果実を手にする日が来る。あなた自身のその手でね。俺は少しはその手助けができると思う。いや、おそらくあなたの手助けができるのは俺以外にいない。だから俺と一緒にいてくれ』

紗季子も静かに立ち上がり、そして林田の方へ向きを変え、二人は立ったまま長く抱き合っていた。
林田の鼓動が再び早くなるのには、それ程時間は必要としなかった。

*******************************************


うわ~!これってどうよ(*´艸`*)
あ~苦手、こういうの。恥ずかしいからあとがきはこれでオシマイ。明日も見てね(^_^)/~~~

・・・あ!明日は完結編です。お楽しみに~




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以前アップしたアルファを題材にした読み物も、ご興味あればぜひご覧くださいませ。
第1作:1話2話3話4話5話6話ネタばらし(^O^)
第2作:1話2話3話4話
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第10作:1話2話3話4話
第11作:1話2話3話4話5話6話
一話読み切り:ショート・ショート


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