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アルファロメオの登場する短編Season2-2

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「お嬢さんは深夜のドライブをご所望か?それならばこんな、俺のような変人の運転する車に何故乗りたいんだ?」

予想もせずに出会って、しかもまだ5分ほどしか経っていない。手元のタバコもまだ半分ほど減ったばかりだ。
ここからR134を戻り、初声(はっせ)を抜けて天神島を過ぎた辺りからは左手に暗い海が見えるはずだ。
まぁどこの誰かもわからない、自分に娘が居たとしたらちょうどこのくらいの、若いお嬢さんとドライブするっていうのも一興かと、ふと思った。

(なんだよ珍しく随分楽天的な俺だな。これもあの虚空を照らす満月がもたらしたのかもな)

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「ご無理を言って申し訳ありません。おじさまの帰り道に都合の良いところまでで結構です。是非お願いします。」

「よし。分かったよ。ここからR134で葉山方面に向かおう。海岸線は左手だから座るのは助手席でいいか?良かったな俺の車が右ハンドルで。左ハンドルだったら二人して左側に前後に座らなきゃいけなかった。どう見ても滑稽だよな」

康宏はこのちょっとしたハプニングを楽しみはじめていた。
シーボニアの駐車場から再び急な坂道を登り国道へ向かう。特に話す話題もなく、ふたりとも押し黙ったままだったが、さすがにこの静寂のまま運転を続けるのは気が重い。

「え~と、自己紹介は要るか?俺は勝手にしゃべるぜ。名前は榎戸康宏、年は58歳、バツイチ、子供無し、売れない写真家、住まいは横浜」

「そうでしたね、まだ名前も何もお伝えしていませんでした。私は大庭沙織、25歳で学生です。住まいは・・」

「シーボニアマンションか?」と康宏は混ぜっ返し、そして続けて「よし分かった。サオリさんか、いい名前だ」と、まだあまり詳しい情報は欲しくないとばかりに沙織の声を遮った。

三崎口の駅をかすめて初声から武山駐屯地までは康宏の好きな道だった。
緩やかなアップダウンと見通しの良いカーブが続く。康宏はツインチョークのデロルトの吸気音を楽しめる音域までガスペダルを踏み込んだ。

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この速度域でのドライビングは彼女、サオリさんを怖がらせるかもしれないと、チラッと彼女の横顔を見てみた。

「あ、やっぱりこの車だ。何年ぶりだろう」

沙織の口からは恐怖の言葉どころか、ジュリア・スーパーのドライビングを楽しんでいるかのような言葉が漏れるのを康宏は聞き逃さなかった。

『ますます不思議な女の子だ』 康宏は少し拍子抜けしたような、けれど安心して暗闇の向こうにステアリングを切った。

しばらくすると開け放った助手席の窓から波の音が聞こえてきた。
その頃には沙織は一言も言葉を発しなくなり、もちろん康宏には一瞥もくれず遥か遠くに光る海原をただ見ていただけだった。

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逗子で一休みするかと、途中のコンビニで飲み物を買い、逗子マリーナに立ち寄った。
相変わらず沙織は海を見つめ、波の音を聴いているようにみえる。

「疲れただろう。ほら、ジュースだよ。降りて少し歩くかい?」と康宏

「ううん、この車の中から海が見ていたい。それと、タバコどうぞ。私大丈夫ですから」沙織は野菜ジュースにストローを挿して次に言葉を繋いだ。
「・・・実はわたしの父がこの車に乗っていたんです。ううん、はっきりと覚えているわけじゃないけれど、父にだっこされた私が白い四角い車の前で撮った写真があるんです。父は当時西洋の美術品を扱う古美術商でした。アンティークではなくてエジプトやササン朝、ギリシャなど中近東を中心とした古美術品でした」
「その父が乗っていた車がなんだったか知りたくて調べてみると、それはおそらくアルファロメオのジュリア・スーパーだと確信することになりました。オフホワイトで静脈血のように赤黒い内装のジュリア・スーパー。それと当時父が好んで吸っていたジタン。今私の記憶の中にある父親の思い出の中で一番強烈な記憶はその2つなのです。」

缶コーヒーに口をつけながら康宏は黙って聞いていた。右手にはそのジタンを摘んでいた。

「先月友人のヨットに乗らせてもらえることになり、油壷まで来ました。夕食のあと忘れ物を取りに駐車場に降りてくると、そこにこのジュリア・スーパーが停まっていたんです。近寄って見たかったんですが運転席に人影が見えたので無理でした。そしてもっと驚いたのはその運転席からジタンの香りが漂ってきたことです。その偶然の出会いに、私は喜びよりも驚きのほうが大きくて、忘れ物を取りに来たことも忘れて部屋に戻ってしまったんです」

「先月?あぁ確かに来たね。そうか父親の車か」

「はい。友人にワケを話して見ると、友人も金曜日の夜に来ることが多いって、知ってました。友人はジュリアクーペを持っているので榎戸さんの車に気がついていたみたいです。友人は週末にヨットに乗りに来るので、それから毎回私は榎戸さんのジュリア・スーパーがやってこないかと待っていたんです。もしまたお会いできたらこんどこそお声をかけてみようと」

俺にも娘がいればこの娘と同じくらいの年齢だったろうに、と康宏は沙織の声を聞きながら今までの己の生き方を振り返ったりしていた。
前の女房とわかれたあとも何回か所帯を持つ可能性が無かったわけじゃなかった。けれど"タイミング"が何時もズレてたし踏み切れるきっかけが今ひとつなかった。
自分の血を継ぐ子供がいないっていうのは、この歳になって少々さみしい思いがするということも正直感じていた。

「父は休みの日には私を連れて海に連れて行ってくれました。この海の向こうには日本よりずっと昔から優れた文化を持つ国があって、その美しい工芸品を後世に伝える仕事がお父さんの仕事だって話してくれました。潮の香りとジタンの香り、そしてあのジュリアの独特の車内の香り。私が小学校に上がって暫くまで、父は私のすぐそばにいたんです」

「・・・いたんですって、どういう・・・」

「事故で亡くなりました。ヨーロッパのオークションに行っている時に現地の航空機事故で。母は私には詳しくは教えてくれませんでしたが」
「榎戸さん、ありがとうございました。父がこの世からいなくなってもう15年。それでもまだあのジュリア・スーパーの後席から見たこの相模湾と磯の香り。そして優しい父の笑顔は私の宝物なんです。我儘を聞いて下さって本当にありがとうございました。私はタクシーで戻ります。榎戸さんは直接ご自宅へお帰りくださいね」

「こんな時間にタクシーが拾えるわけ無いだろう?逗子駅まで送ろう。おそらくタクシーの一台や二台いることだろう」

再びエンジンに火を入れ、康宏は逗子駅へ向かった。セブリングのマフラーにひときわ大きくブリッピングを入れて。



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あ~セリフ、長すぎ。主題がズレて破綻しそう・・・

さて一転して興味深い断片が。親子ほどの二人に待ち構えている結末は?また明日(^.^)/~~~





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