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アルファロメオの登場する短編 Season5-5

さてシーズン5は今夜で完結。
愛するものを失った家族に待っている結末は・・・・

星の降る夜だから /5


由依のたっての願いで哲夫の145は処分せずに置いておこうという結論になった。
仕事で運転を必要とされる由依だったが、このアルファロメオという車のことは全く知らず、もっと云えば普通の運転と違う扱い方を求められているような気がしてならなかった。
父親とも相談し、先ずは先日訪れたこの車の購入先の中古車屋さんに行って、詳しく聞いてみようということになった。

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応接室など望めない店の隅、若い従業員がオイル交換をしている黄色い車のオーナーさんの隣のテーブルで、由依は店主と話す時間をもらえた。
店の主人は終始哲夫のことを好印象な表現で話してくれたので、由依は何処か弟のことではない他人のことを聞いているようなくすぐったい気持ちだった。

「う~ん。一言で言うのは難しいけど、この車は理詰めで運転しちゃいけないと云えばいいのかなぁ。理屈じゃなくって感性ですよ、必要なのは。それでないと運転していても面白く無いでしょうね」
元は白かったと思われる油まみれのツナギを着た店の主人は、腕組みをして由依の運転してきた145を眺めながらそう言った。

「よく分かりませんが、この前少し走らせた時のことと今日運転してきた感覚を、説明されれば確かにそんな気がしないこともありませんね。マニュアルシフトは普段から乗っていますが、ギヤを選ぶということに積極的にさせられる気持ちは初めてでした」
由依は上手く告げられないもどかしさを感じながらも、車全体が弾けるような躍動感を持つこの車が少し好きになってきていた。

「あ、私より説明が上手いや。そうそう、運転というよりも操るという言葉の方が似合いますよね。その辺が判ってもらえればこのクルマに乗るのに何の障害もないでしょうね」
店主は組んでいた腕を解き、かぶっていたキャップを脱ぎながらそう告げたが、その顔は少し微笑んでいた。

弟はそんな運転が、そんな車が好きだったのか。
学生時代に出会った、云わば一目惚れみたいな感傷でこの車を購入したのではないかと思っていた由依は、最後まで弟の心の奥底については答えを出せなかった。

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「美雪さん?由依です」
家に戻った由依は思い立って美雪に電話を掛けた。
由依と美雪は6歳年が離れていたのだが、妹のいない由依は、出しゃばらず控えめなのにきちんと自己を訴えることの出来る美雪のことを好いていた。
「あのね、今度是非美雪さんを連れてドライブに出かけたいの。哲夫の四十九日も済んだし、もうずいぶん春めいて来たから、少し遠くに二人で出掛けてみない?」

「はい。有難うございます。行き先はもう決めていらっしゃいますか。出来るなら一面空の見える所が良いなって思うのですが」

結局二人は次の週末に1泊で南房総へ出かけることにした。
冬の時期からたくさんの花であふれる南房総は由依も久しぶりに行ってみたかった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

由依は自分でも驚くほどこのイタリアのじゃじゃ馬のような車を馭せるようになってきていることに気がついた。
街中を外れてお花畑が見えるようになると、二人はまだ少々冷たい風をものともせず、サイドウインドウを開け放ちドライブそのものを楽しんでいるかのようだった。

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二人はお花畑で花を摘み、父と母へのおみやげを宅配便で手配したりした。
砂浜まで降りられる道を見つけたが、さすがに砂浜を145で走るというのは暴挙だと取り止め、波打ち際を散策した。
ひとしきり遊んだ後は道の駅で海鮮料理を堪能し、陽が傾くまで二人は145とともにあちらこちらを駆けまわった。
今夜の宿は海岸近くの旅館。春先ではあったが観光客はそれほど多くなく静かな夜を迎えられたのは幸いだった。

「ねえ、美雪さん。食事の後海岸に出てみない?浴衣に半纏を羽織れば大丈夫でしょ。やっぱり房総は暖かいわね」

はるか南からやってくる黒潮がちょうどこの房総沖で北から下がってくる親潮と出会う。
たくさんの命を育む大量のプランクトンが黒潮に乗り豊かな海の幸を育んでくれている。
おかげで春先だというのにこの半島には様々な花が咲き乱れ、夜半の月を眺めるのにも浴衣の上に半纏掛けという程度で海からの風は心地よかった。

「由依さん、海風が心地よいです。街灯があるのに海の上はたくさんの星が見えるんですね」
美雪と由依は防波堤に並んで腰掛けていた。

「そうね。もう少し日中の気温が高くなると靄ってしまうから、そろそろ冬の空ともお別れの季節ね」
上空は風が強いのか、燦めく星たちはその瞬きを早くしている。
由依は思う。いつかきっと哲夫は一人でこれよりもっとたくさんの星が降る夜空を見上げたことがあることに違いないと。

『他人に心を開かなかったのは何故?悩みを分かち合える友を求めなかったのは何故?家族のこと考えてくれてた?美雪さんのことは?』
由依は言葉にこそしなかったが、次第に増えてくる星たちに向かってそう投げかけた。

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「由依さん、私は思うんだ。他人から見てあり得ない選択をしてしまったとしても、テツは自分に負けたんじゃないって。少し休みたいっていう日記のあの言葉、私には分かる。純粋でまっしぐらなテツは自分を曲げてまで生きるという、器用なやり方が出来なかったんじゃないかって」

由依はなぜか見たこともないのに、あの赤い車の運転席で人には見せたことのない微笑んだ表情で運転する哲夫の情景を思い浮かべた。

「うん。もういいのよ。私には誇れる弟だったことには変わりない。そしてきっとまだ見ぬテツの想いがたくさん詰まってるはずの、あのアルファロメオと云う車があるし。これから先何年手許に置いておけるかわからないけれど、私なりに大切にしていくから」
由依はそう言うと手の甲で頬を拭った。

どちらが言うということもなく、二人は防波堤から腰を上げた。
益々暗くなった春夜の空には無数の星たちが輝き、黒々とした海面に滲んで映っていた。

「こんな沢山の星が降る夜には哲夫に会えそうな気がする。またね、テツ」
美雪はそう言うと海を背にして通りへと向かっていった。


********************了*********************

はい。第5話終了です。
暗い話題で申し訳ありませんでした。。。。

楽屋裏をお披露目するのは無粋というものですから多くはお伝えしませんが、どうしてもこの話は書いておきたかったんです。
長々とお読みいただきありがとうございました。

というわけでSeason5は終幕です。また明日(^.^)/~~~


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第一作:1話2話3話4話5話6話ネタばらし(^O^)
第二作:1話2話3話4話
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一話読み切り:ショート・ショート

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